中小企業の法務マニュアル作成のススメ

中小企業の法務管理の重要性

多くの中小企業では、日々の業務が優先され、法務は後回しにされがちです。
特に、法的リスクや法務対応に関する知識が不足している場合、問題が発生した時に対処が遅れることがあります。
しかし、法的リスクを適切に管理し、事前に備えておくことは、企業の持続可能な成長に不可欠です。
法務を後回しにすることの代償は、後々大きな問題となって企業の存続を脅かすことがあります。

中小企業の法務管理の現状

中小企業が法務を適切に処理できない理由の一つは、社内に専門的な法務知識を持つスタッフがいないことです。
リソース不足(人員・資金・知識)は確かに大きな要因ですが、それだけではありません。
中小企業の経営者や従業員は、何をどのように対応すればよいのか、あるいは何を専門家に任せるべきなのかを明確に理解していないケースが多いです。
このような状況では、「手遅れになってから法的トラブルに気づく」という事態が頻繁に発生します。
実際、問題が表面化してからでは手遅れで、訴訟や重大な損害などに発展するリスクがあります。

中小企業が抱える法的リスクの種類

中小企業が直面する法的リスクはさまざまです。
代表的なリスクの例を挙げてみましょう。

契約トラブル
取引先との契約が曖昧だったり、適切な契約書を交わしていなかったりすることで、トラブルが発生する可能性があります。
労務トラブル
従業員との労働契約に不備があったり、労働法を遵守していない場合、労使トラブルや労働争議に発展するリスクがあります。
知的財産権トラブル
商品やサービスに関する特許や商標が保護されていない場合、他社による模倣や侵害が発生する可能性があります。
貸倒れトラブル
取引先からの代金回収がスムーズにいかず、未払いが発生した場合、キャッシュフローの問題に直結します。
中小企業が直面する法的リスクの例

法務マニュアル作成の必要:法務管理の効率化

法務マニュアルを作成することで、法的リスクに対する対応が標準化され、企業全体で一貫した判断が行えるようになります。
つまり、法務分野での3Sを実現できるようになります。

標準化
法務対応を一定の基準に基づいて行うことで、担当者や事案ごとの対応のばらつきを防ぎます。
単純化
複雑な法務手続きやリスク管理をシンプルに整理し、処理の効率化を実現します。
専門化
マニュアルにしたがって担当者が処理を続けることで、担当者の専門性を高めることが可能になります。
法務管理の3Sの実現

法務マニュアル作成の手順

①法的リスクの把握
最初に、自社の事業活動や取引の流れを把握し、それぞれのプロセスでどのような法的リスクが生じるかを整理します。
たとえば、契約書の内容確認、従業員との契約、クライアントや取引先との取引条件など、様々なリスクが考えられます。
ポイントとしては、「誰かと何かをやりとりするときには、必ずトラブルが生じ得る。」と意識します。
②リスクの分類と優先順位の決定
すべてのリスクに完璧な対応を行うことは、リソースも時間も足りません。そこで、各リスクの重大性や発生頻度に基づいて、対応すべきリスクを分類します。
リスクが小さいものは社内で対応可能ですが、リスクが大きいものや複雑な問題は外部の専門家に依頼するべきです。以下のような基準で分類すると良いでしょう。
・リスクが小さい:
 社内で簡易に対応する
 例:定型的な契約、金額の小さい契約など
・リスクが大きい:
 社内で慎重な対応をする
 例:定型ではない契約、金額の大きい契約など
・リスクが特大または複雑
 専門家にサポートを依頼する
 例:特に金額の大きい契約、新規事業、訴訟案件など
③社内対応のマニュアル化
リスクの大きさの分類をマニュアル化します。
次に、社内で対応するリスクについては、具体的な対応手順をマニュアル化します。
このマニュアルは、従業員が日常業務の中で迷わずに対処できるようにし、トラブルを未然に防ぐための指針となります。
④外部専門家への相談基準の設定
リスクが特に大きい場合や、複雑な法的問題が発生した際に、どのタイミングで専門家に相談するべきかを明確にします。
これにより、手遅れになる前の必要な時期に適切なアドバイスやサポートを得ることができます。
法務マニュアルの作成手順

マニュアルの例

マニュアルの内容としては次のようなものが考えられます。

①リスクの大きさの計算方法
取引金額、取引期間などをもとにリスクの大きさを計算する方法を定式化します。
②リスクの大きさごとの処理基準
・〇円以下の契約:社内で簡易に処理
・〇円~〇円の契約:マニュアルにしたがって契約内容をチェック
・〇円以上の契約:専門家に契約書チェックを依頼
③未払発生時の処理基準
・期日に支払いがなければ社長に報告
・〇円の未払が発生したら取引の一時停止
・〇円の未払が発生したら専門家に依頼
作成するマニュアルの例

終わりに

法務マニュアルを整備することで、企業内での判断や対応のスピードが向上します。
従業員が適切にリスクを認識し、事前にトラブルを防ぐ手順を理解することで、社内全体の業務効率も向上します。
さらに、専門家との連携を図ることで、より高度な法的リスクにも迅速に対応できるようになります。

中小企業が法務を軽視することは、短期的なコスト削減にはつながるかもしれませんが、長期的には大きな代償を伴います。
適切な法務マニュアルを整備し、社内での対応能力を向上させることは、法的トラブルを未然に防ぎ、企業の安定した成長をサポートする重要な要素です。

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