固定残業代制度は、働き方改革の一環として採用されることが多いですが、導入には法的要件を満たす必要があります。本記事では、固定残業代の効果、要件、リスクについて詳しく解説します。
目次
固定残業代の効果
判例上、「基本給の中に残業代を含む」という制度自体は認められています。ただし、以下の点に注意が必要です。
実際の残業代が固定残業代を超えた場合、差額を支払う義務がある | 例:固定残業代として毎月10万円を支給する制度を導入していた場合 実際の残業代が15万円 → 差額5万円を追加で支給する必要がある |
固定残業代を導入しても、残業代の支払い総額を減らすことはできない | 想定よりも残業時間が少ない場合は、実際の残業代よりも多く支払うことになる 想定よりも残業時間が多い場合は、実際の残業代の支払い義務が発生する |
つまり「固定残業代を設定することで、企業が残業代の支払いを削減できるわけではない。」という点を理解することが重要です。
固定残業代制度の適法要件
固定残業代制度を有効にするためには、以下の要件を満たす必要があります。
基本給と残業代部分の区別が明確であること
固定残業代を導入しても、実際の残業代が固定残業代を超える場合には追加の残業代を支払う必要があります。
このため判例では、「基本給部分」と「残業代部分」を明確に区別できることが必要とされています。
適切な制度設計の例は次の通りです。
- 基本給25万円+固定残業代5万円
- 月給30万円(ただし5万円分の固定残業代を含む)
不適切な設計の例は次の通りです。
- 月給30万円(残業代を含む)
⇒この定め方の場合にはどこまでが基本給でどこからが残業代かを区別できません。
要件を満たしていない場合のリスク
固定残業代の制度が無効と判断された場合、「残業代が支払われていない」と見なされます。
このため、支払っていない残業代を追加で支払う必要があります。
さらに、固定で支払われていた金額はすべて基本給として扱われ、その基本給をもとに残業代が計算されます。
つまり、次のような計算になります。
例:「月給30万円(残業代を含む)」という規程だった場合
(所定労働時間:176時間 残業時間20時間として算定)
基本給 | 時給単価 | 割増賃金 | 残業代 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|
会社の想定 | 25万円 | 1420円 | 1776円 | 3万5511円 (5万円固定) | 30万円 |
実際の計算 | 30万円 | 1705円 | 2131円 | 4万2614円 | 34万2614円 |
固定残業代制度のメリット
財務的なメリットは限定的
固定残業代制度には、財務的なメリットは限定的です。その理由は以下の通りです。
労働時間の管理が必要 | 固定残業代を導入しても、労働時間を管理し、固定残業代を超えた場合は差額を支払う必要がある このため、労働時間の管理コストを削減することもできない |
適切な設計をしないと、法的リスクが高まる | 要件を満たしていない場合、未払い残業代請求のリスクが発生し、企業にとって大きな負担となる可能性がある |
労働者のモチベーションを高めるメリットがある
効率化のインセンティブを高められる | 「残業をしなくても残業代を得られる。」ことで業務を効率化することのインセンティブが高まり、従業員の能力向上につながる |
やる気や健康を維持しやすくなる | 同様に、長時間労働によるやる気や健康の低下を避けることができる |
まとめ
固定残業代制度は、労働者の収入を安定させる効果はあるものの、企業が残業代の支払いを減らす手段にはなりません。
導入する場合、「基本給」と「固定残業代」を明確に区別することが必要です。
要件を満たさない場合、固定残業代は無効となり、結果的に企業の負担が増加するリスクがあります。
固定残業代を適切に運用するには、法律の要件を正しく理解し、企業の実情に合わせた設計を行うことが重要です。