死亡した借主から返済を受ける方法

ケース

Xさんは死亡したAさんに500万円を貸していました。
Aさんは不動産を持っていますが、Aさんには相続人がいません。
何とかしてAさんから返済を受けることはできるでしょうか?

相続人がいる場合

相続人がいる場合には、相続人が借金も相続します。
このため、相続人に対して請求することで返済を受けることができます。

相続人がいない場合

相続人がいない場合でも、相続財産から返済を受けることができます。
そこで、このケースではAさんが持っていた不動産を売って売却代金から返済を受けることができます。
しかし、Aさんは死亡しているので売却することができません。

そこで「相続財産清算人」を選任することが考えられます。
相続財産清算人は、裁判所から選任されて、相続財産を清算します。
死亡した人の代わりに遺産を管理する人ということになります。

このケースであれば、相続財産清算人は不動産を売却して現金に換えます。
その上で、その現金からXさんに借金を返済することになります。

まとめ

このように、相続財産清算人を選任することで死亡した人との法律関係を解決することができます。
貸した相手が死亡した、借りた相手が死亡したなどで困った場合には、一度専門家に相談してください。

判例紹介:労災保険の支給決定に対して、事業者は取消訴訟を提起することはできない

令和6年7月4日最高裁判決

令和6年7月4日、最高裁判所でこのような判決が出ました。
労災保険の支給決定に対して、事業者は取消訴訟を提起することはできない」
少し聞いただけでは分かりにくい内容ですので紹介いたします。

労災事故によって負傷などをした労働者は、労災保険の支給を受けることができます。
これは、行政庁と労働者の間の権利関係なので、本来は事業者(使用者)には関係がありません。

一方で、労災事故が多い事業所は労災保険料が高くなる仕組みになっています。
このため、本当は労災事故ではないものが、労災事故と認定されて労災保険が給付されると、事業者は保険料が高くなるという不利益を負うことになります。

そこで、事業者が労災保険給付の支給決定の取り消しを求めることができるかを争われたのが、今回の訴訟です。

裁判所は冒頭の通り 事業者が取消訴訟を提起することはできないという判断を示しました。

事業者からの争い方

そこで問題になるのは、
誤って労災認定されたために保険料が高くなるという不利益に対して、事業者はどうやって争うか
ということです。

これについては、本件判決でも触れられています。
労災の支給決定とは別に、労災保険料の認定という、事業者に対する行政処分がなされます。
裁判所は、この労災保険料の認定の効力を争えば足りる(から支給決定に対しての取消訴訟を認める必要はない)としています。

つまり、事業者としては、労災保険料の認定に対して取消訴訟等で争うことになります。
そして、この訴訟の中で前提となる労災事故の該当性を争うことになります。
「事業者は労災事故に当たるか否かの判断を争うことができない。」という意味の判決ではないので安心してください。

養育費と民法改正

2024年5月17日に、養育費についての民法改正が成立し、2026年までに施行されることになりました。

1 従来の制度

従来の制度では、養育費は父母の取り決めによって決まっていました。
このため、父母の間で養育費を取り決めることなく離婚していた場合に養育費を請求するには、まずは養育費を取り決めるための手続きを行う必要がありました。

また、従来の制度では、先取特権(後述)という優先権は付与されていませんでした。

2 新しい制度

新しい制度では、法定養育費という制度が導入されます。
これは、父母の取り決めがされていなくても、一定額の養育費の請求権が発生するというものです。
これによって、養育費の取り決めの手続きを行うことなく、いきなり養育費請求を行うことが可能になります。

さらに、養育費に先取特権が付与されます。
これによって、養育費を他の債権よりも優先して請求することができます。
例えば、支払義務者が借金だらけであっても、借金よりも先に養育費を支払うように要求できます。

3 調停などの手続を省略して差押をできるようになる

さらに、先取特権という優先権が付与されたことで、調停などの手続きを省略して差押を行うことが可能になります。

従来は、公正証書の作成や調停手続を行っていない場合には、訴訟や調停を経なければ差押を行うことができませんでした。

これが、先取特権を付与されたことで、いきなり差押を行うことが可能になります。
これによって、迅速な養育費の支払請求が可能になります。

従来の流れ

養育費が支払われない
 ↓
調停などで請求
 ↓
数か月の調停手続き
 ↓
調停や審判の結果を使って差押

新制度での流れ

養育費が支払われない
 ↓
先取特権に基づいて差押

共同親権と民法改正

2024年5月17日に、共同親権を導入する民法改正が成立し、2026年までに施行されることになりました。

1 現在の制度

現在の制度は、ご存じのように単独親権となっています。
このため、両親が離婚した場合には、子供の親権はどちらかの親が持つことになります。

ここでのポイントは、離婚後の関係や監護の現状に関係なく、単独親権になっていることです。

例えば、虐待やDVがなくても、共同して子育てをできていても、単独親権になります。
実際にも、離婚後もある程度良好な関係を維持している人や、共同で子育てをしている人が多数います。
それを考えると、単独親権の制度は現状に合っていないといえるでしょう。

2 改正後の制度

改正によって、共同親権が認められますが、共同親権に支障がある場合には単独親権とすることができます。

ここでのポイントは、原則が共同親権になることです。
共同親権が導入されただけではなく、原則が共同親権になるということで、制度が180°変わることになります。

懸念されているような、虐待やDVなどの事情がある場合には、単独親権とすることができます。
今後の制度としては、裁判所がこれをどのように運用するかが重要になっていくでしょう。

3 共同親権に変更するには

改正前に離婚していた人は、改正後も単独親権のままとなります。

これを共同親権に変更するためには、裁判所に親権者変更の調停を申し立てることになります。
(残念ながら、共同親権に変更するための簡易の手続きは設定されていません。)

この調停がどのようになるかも、裁判所の運用がどのようになるかが重要です。

虐待やDVなどの特別な事情がない限り、共同親権に変更されるという運用をするのか
共同親権に変更すべき特別な理由がある場合に限り、単独親権から共同親権に変更するという運用をするのか
改正直後の裁判所の運用に注目することになります。
(個人的には、原則が共同親権になった以上は、前者にすべきだと考えていますが、、、)

パワハラ問題の対応

パワハラ問題の難しさ

法律相談に行くと,労働者の側からは法律上明らかにパワハラに当たらない行為(単に叱られただけなど)についてパワハラを受けていると相談を受けたり,逆に,使用者の側からは明らかにパワハラに当たる行為をパワハラになるわけがないと主張されるなど,人や立場によって認識に大きな違いがあると感じます。

特に,スタートアップ事業者の場合には,人を雇うことが初めてであったり慣れていない,経営者自身は優秀な人間であるなどの理由から指導が厳しくなりパワハラが発生してしまうように感じます。
パワハラの問題を考えるにあたっては,自分ならパワハラだと感じるか,自分なら苦痛であるかではなく,法律上パワハラに当たると認定されるかという観点から考える必要があります。

会社にとってのパワハラ問題のリスク

パワハラの問題が顕在化した場合には以下のようなリスクが発生します。
⑴ ハラスメントによって従業員に対して発生した精神的損害の賠償責任(慰謝料),負傷や精神疾患が発生した場合の治療費などの賠償責任が生じます。
仮に,パワハラが原因で自殺などが発生した場合には,多額の損害賠償が発生します。
⑵ パワハラ問題が世間に知られることによって,不買につながったり,労働者の採用が困難になったりすることがあります。
⑶ パワハラによる精神疾患などが労災と認定された場合には,企業が支払う労災保険料が増額される場合があります。

パワハラの定義

⑴ 定義
労働施策総合推進法第30条の2第1項では事業主の雇用管理上の措置の義務が定められており,それを参考にするとパワハラの定義については以下のように捉えることができます。

① 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
③ その雇用する労働者の就業環境が害されるもの

①「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動」は,仕事の都合上,相手のいうことを聞かざるを得ない状況で行われる言動であることです。使用者と被用者という関係である以上は,職場外であっても該当すると考えて行動すべきといえます。

②「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」は,個人の受け取り方によっては不満を感じても,業務上必要かつ相当である限りはパワハラに当たらないことを示しています。


③「その雇用する労働者の就業環境が害される」は,次のような行為が該当するといわれています。

a 暴行・傷害(身体的な攻撃)
b 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
c 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
d 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
e 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
f 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

⑵ 運用
①はほぼ該当すると考えてよく,②の判断は簡単ではないことを考えると,③に該当する行為は避けるようにし,該当するかもしれない行為を行う必要がある場合には専門家の意見を聞きに行くべきでしょう。

やってはいけないライフハック

インターネットや一部界隈で、ライフハック(生活で便利な小技)として紹介されているものがあります。
しかし、その中には絶対にやってはいけないものがあります。

過剰予約と予約の取消

新幹線、コンサートチケットなどで座席を予約できる場合に使えるとされるテクニックとして、隣の席も予約するというものがあります。
例えば、自分の隣の席を予約しておき、キャンセル期限直前にキャンセルを行うことで、隣の席が空席になり快適になるとのことです。

また、飲食や結婚式について、あらかじめ多数の予約を(仮押えと伝えずに)入れておき、日付が決まってから他をキャンセルするという方法もあります。

偽計業務妨害

これらの行為は、偽計(利用する予定がないのに予約する行為)によって、業務(会社が予約を受ける業務)を妨害して、損害(予約と集客の機会を奪う)を与える行為として、偽計業務妨害罪に該当する場合があります。

ネット上で紹介されている便利そうに見える行為であっても、「誰かに迷惑をかける行為」については、刑罰や損害賠償の対象になる場合があるので注意が必要です。

事故調査の目的と注意点

お正月に発生した航空機事故について、航空鉄道事故調査委員会(事故調査委員会)による調査と、警視庁による調査が行われています。
この2つの調査は目的が全く異なるため、アプローチも異なってきます。

事故調査委員会は、事故の原因を特定し、再発防止のために何が必要かを検証するための調査を行います。
例えば、今回の事故であれば、なぜ離陸機が滑走路に進入してしまったのか、管制の指示を誤解する原因は何だったのか、着陸機が離陸を認識して回避できなかった原因は何だったのかなどの調査を行います。
その上で、管制の指示方法の見直し、プロトコルの見直し、衝突防止装置の搭載など必要な施策を検討することになります。

ここで重要なことは、誰が悪いかの調査を目的にしていないことです。

一方で、警視庁(都道府県警)による調査は、誰かに対して刑事責任を問う必要があるかを特定することを目的にしています。

ここでは、誰(管制、離陸機、着陸機)がどれくらい悪いか(過失があるか)特定することを目的にしています。

事業会社として参考にすべき部分

このように、事故の調査においては2種類の目的があり、それによって調査方法がことなります。

事業会社においても、何らかのトラブルが発生した際に、原因調査を行う場合があります。

このとき、誰が悪いの調査を行いやすくなり、従業員としても「自分は悪くない」という主張を行いたくなります。
その場合には、適切な原因究明や解消ができず、トラブルが繰り返されるという事態が発生します。

調査時には、原因究明と再発防止が目的であり、従業員の責任追及はしないことを明言するなどした上で調査を行うことが、会社の将来の利益の観点からは重要になります。

謹賀新年

明けましておめでとうございます

本年も
すべての人が法的サポートを受けることのできる社会を作り
地域社会の活性化に貢献できるよう尽力してまいります

新たな一年が
皆様にとって素晴らしい一年であることを
心より祈念しております

解雇時の注意点

従業員を雇用していると、解雇せざるを得ないケースが発生します。
従業員を解雇する際には、どのような点に注意すべきでしょうか?

解雇無効の効果

労働者を解雇する場合には、後述するように厳しい要件が要求されています。
要件を満たしていない場合には、解雇は無効となります。

判決で解雇無効と判断された場合には、解雇から判決までの期間の賃金を支払う義務が生じます。

裁判の準備から判決には1~2年くらいの期間がかかります。
このため、約2年分の賃金を支払うことになります。
年収500万円の労働者であれば、合計1000万円ほどの支出ということになります。

解雇の要件

判例および法律は解雇の要件として
 ① 合理的な理由
 ② 社会的相当性
の2つを要求しています。
さらに、この要件を満たしていることは使用者の側で立証する必要があります。

解雇時の注意点

このため、どうしても従業員を解雇する必要が生じたような場合には
 ① 要件を満たしているか
 ② それを立証できるか
という2つの観点から検討する必要があります。

もちろん、解雇すると決めた場合には、立証のための証拠を保存することも必要になります。

コストとリスク

コストとリスクは、似たような意味で使われますが全く違う概念です。
経営を行うに当たっては、この二つの違いを意識する必要があります。

リスクとは

リスクとは、「目的に対する不確かさの影響」と言います(ISO31000)

分かりにくい言い方ですが、要は「どうなるか分からないこと。」だと理解すればよいでしょう。

コストとは

一方で、コストとは文字通り出ていくお金のことです。

固定費や変動費として発生する支出と理解すればよいでしょう。

リスクとコスト

例えば、固定費が大きく、変動費が小さい事業を考えます。
この場合には、売上が小さくても大きなコストが発生するため損失が大きいが、売上が大きくなってもコストが増えないため利益が大きくなりやすいので、リスクが大きいがリターンも大きいということができます。

逆に、固定費が小さく、変動費が小さい事業を考えます。
この場合には、売上が小さい場合にはコストも小さいため損失は小さくなりますが、売上に比例しコストも増えるため利益が大きくなりにくく、リスクが小さいがリターンも小さいということができます。

リスクとコストという考え方をする場面

リスクとコストを分けて考えると、経営判断を行いやすくなります。

例えば、1年契約と1か月ごとの契約(1年であれば安くなる場合)を比較した場合、1年契約であればコストが小さいがリスクが大きいのに対して、1か月契約であればコストが大きいがリスクが小さいと言えます。

その上で、リスクとコストのどちらを優先したいかという観点から経営判断を行うことになります。