節税対策の落とし穴

収入が増えると節税対策を考え始めます。
一般的な方法は、経費を多くして利益を減らすことでしょう。
しかし、利益が減るということはそれによって損失が発生するリスクがあります。

働けなくなった時の逸失利益

交通事故に遭うなどして働けなくなった場合、休業日数に応じた損害(逸失利益)が発生します。
この逸失利益は加害者に請求することができます。

逸失利益を算定するに当たっては、元々の収入を算定する必要があります。
サラリーマンの場合には、給与明細などを利用してもともとの収入を算定します。

一方で経営者の場合には納税の申告書などで収入を算定します。
節税対策のために利益を減らしていた場合には、減らした後の利益を元に逸失利益が算定されます。
このため、節税対策のために利益を0円などにしていると、事故に遭った際に逸失利益の賠償を受けられないというリスクが発生します。

もちろん、他の証拠を用いて「実際の収入はもっと多かった。」と主張することも考えられます。
しかし、裁判所は、自ら少ない金額で申告していた以上、他の証拠でより多い収入を認定することに消極的です。

このため、節税対策で収入を減らしていたような場合には、事故発生時の逸失利益が減額されると考えておいた方がよいでしょう。

他にも、見かけ上の収入が少ない場合には、ローンを組みにくくなるなどの問題も発生します。
節税対策を行う場合には、見かけ上の利益が少ないことによるリスクが存在することを知っておきましょう。

悪質営業マンの追い返し方

自宅やオフィスに押し掛けて来るしつこい営業はきっぱり断るのが大事です。

しかし、きっぱり断っているのにしつこく営業をしてくる悪質な営業マンもいます。
そのような場合にはどのように対応するべきでしょうか。

悪質営業については事後的な救済手段がありますが、その場合には手間や費用が掛かりますし、業者が逃げてしまえばお金を取り返すことは難しくなります。
その場で断る方法を知っておきましょう。

不退去の罪

刑法には不退去の罪(刑法130条後段)というものがあります。
「(権限のある者から)要求を受けたにもかかわらずこれらの場所(住居など)から退去しなかった」場合には住居侵入と同じ罪が成立します。

しつこい営業マンに対して、退去を命じたのに退去しない場合には不退去の罪が成立します。

警察は民事不介入?

不退去の罪が成立するということは、刑事事件になります。
民事事件ではないため「民事不介入」とはなりません。

つまり警察通報を行うことができることになります。

悪質営業マンの追い返し方

悪質な営業マンがしつこい場合には、まずは退去を促しましょう。

それでも退去しない場合には「警察通報する意思。」を伝えます。
多くの場合はそれで退去しますが中には悪質性の高い営業マンもいます。
ある会社では、警察を呼ぶと言われても退去するな。」と指示されていたこともあるようです。

そのような悪質な営業マンについては本当に警察通報を行いましょう。

残業代を払わないとどうなるのか

従業員に残業をさせると、当然残業代を支払う義務があります。
では、支払わなかったらどうなるでしょうか?

もちろん、後から請求されるわけですが、「それなら実際に請求されてから対応すればいいのではないか?」というわけにはいきません。

請求時期と請求額

賃金の時効は3年です。
このため、多くの場合は、従業員が退職するときに3年分をまとめて請求することになります。

遅延損害金

さらに従業員の退職後は14.6%という大きい遅延損害金が発生します。
この遅延損害金は訴訟継続中も溜まっていきます。

また、訴訟には一般に1~2年かかります。
このため、訴訟終了までの間に、本来の支払額の30%ほどの遅延損害金が付くことになります。

付加金

さらに付加金という制度があります。
裁判所は未払残業代と同じ額の付加金の支払いを命じることができます。

分かりやすく言うと、残業代が支払われていなかったことの罰則として、本来の金額の2倍の金額を支払わせることができます。

残業代請求額を増やすテクニック

また、退職を決めた従業員が残業代を増やすテクニックがあります。

例えば、意味もなくたくさん残業したり、ゆっくり仕事をしたり、仕事を増やしたりすることがあり得ます。
仕事がないのに大量に残業をしても、本来は残業代の支払義務はありません。
しかし、残業代を支払っておらず、残業時間の管理をしていないような会社の場合には、そのことの立証は困難になります。

さらに、残業が美徳の会社になっていると、従業員のそのような行為を、「やる気を出し始めた。」と誤信してしまう場合もあります。

残業代の未払は大きな法的リスクになる上に、従業員のやる気にも関わります。
さらに、そのような情報が拡散されると従業員の確保にも支障をきたします。

従業員を雇用する場合には、労働時間や残業代の管理は十分に行いましょう。

国が認めた借金減額手段?

インターネットを閲覧していると「国が認めた借金減額手段」などという広告が出てくることがあります。
これはいったいどういうものでしょうか?

借金と返済額

100万円の借金を毎月2万円ずつ返すと返済には何年かかるでしょうか?

100÷2で50か月とはなりません。

返済中にも利息が付くので、実際には77か月かかって約155万円を返済することになります。
逆に、先に期間を決めて、例えば

5年間で完済しようとすると、約2.4万円返済する必要があります。

任意整理

そこで登場するのが任意整理です。

これは、月々の返済額と返済期間を合意することで、その約束通りに返済している間は利息が発生しないようするというものです。

この場合、100万円を5年間で返す場合には、月々1.7万円返済することになります。

任意整理をしない場合と比較して約7000円返済額が減っています。
総返済額については、普通に5年間で返済する場合と比較して約30万円減ることになります。

国が認めた?

広告で「国が認めた」などと書かれていることがありますが、特に政府が積極的に推奨している制度というわけではありません。
単に「国が禁止していない」くらいの意味ととらえた方がいいでしょう。

他にも「国が認めた●●」という広告を見ることがありますが、あくまでも国が禁止していないだけであり、国が推奨しているというものではないと考えた方がいいでしょう。

管理監督者と名ばかり管理職

労働者を8時間を超えて働かせると残業代を支払う義務があります。
しかし、管理職であればこの義務がありません(労働基準法41条2号)。

このように聞くと
「従業員をすべて管理職にすれば、残業代を支払わずに定額働かせ放題になる。」
と考える人が出てきます。

しかし、会社が管理職だと定めればすべて管理職になるわけではありません。
裁判所は、残業規制における管理監督者について次のような考え方をしています。

① 労務管理上,使用者と一体的な立場にあること
② 労働時間管理を受けていないこと
③ 基本給や手当の面でその地位にふさわしい処遇を受けていること

分かりやすく言うと、実質的に経営者側であり、働き方も自由であり、それに見合った給料をもらっている、
という場合に管理職と認められるということになります。
中小企業であれば、役員クラスでなければ管理職と認められないとイメージするとよいでしょう。

管理職扱いにして残業代を支払っていなかったものの、実態としては管理職に当たらないといえるような場合を、いわゆる名ばかり管理職と呼んでいます。

名ばかり管理職と認定されると、支払っていなかった残業代を支払う義務が発生します。
しかも、残業代規制がない前提で働いていると、通常よりも長時間の残業を行っている場合が多いです。
さらに、従業員としても「3年くらい働いて辞める時にまとめて請求しよう。」という発想になります。
このため、会社には3年分の残業代がまとめて請求されることになります。
この支出は会社にとってかなり重い支出になります。

このため、自社の雇用内容が管理監督者に該当するか否かは慎重に検討する必要があります。

独立前の法的注意点

法務はある程度事業が大きくなってからと考える事業者が多いですが,実際はかなり早い段階から考える必要があります。 今回は,独立前から注意すべき事項を紹介します。

1 退職前に会社を設立し,あいさつ回りをすること

⑴ 副業禁止規定との問題

最近は副業を許容する会社も増えてきていますが,依然として就業規則で副業を禁止している企業が多くあります。

もし,就業規則で副業を禁止している場合には,会社設立やあいさつ回りは禁止された副業に当たるとして懲戒処分がされる可能性があります。仮に,減給や解雇がされた場合には,収入が途絶えて独立後の資金計画に影響を与える可能性があります。

ここで,副業禁止規定が有効かという問題があります。

勤務時間以外の私生活上の時間は労働者が自由に利用できるため,勤務に支障をきたすなどの合理的な理由がなければ副業を禁止することはできません。

勤務時間外に仕事に差し支えない範囲で行う場合には,副業禁止規定との関係では許容されるといえるでしょう。

⑵ 競業禁止との問題

競業については,就業規則に規定がなくても禁止されると解釈されています。

したがって,行おうとしている業種が勤務先と競業する場合には,たとえ勤務時間外であっても営業活動と解釈されうるような行為は避けたほうがよいでしょう。 単に登記のみを行ったり,独立の予定を伝えるのみで営業活動を行わないのであれば適法とされる余地がありますが,勤務先との紛争リスクを抱えるという問題が生じます。

2 同僚を引き抜くこと

従業員の引き抜きについては,引き抜きが違法であるとして元勤務先から損害賠償請求をされる場合があります。

ただし,引き抜かれる従業員にも職業選択の自由があるため,引き抜き行為は原則として違法とはなりません。

勤務時間中に勧誘を行う,執拗な勧誘を行う,あえて勤務先を害するような退職方法をとらせるなどの事情があると違法とされるような場合があります。

3 退職金

会社によっては「退職後に競業他社に就職した場合には退職金を支給しない。」と規定されていることがあります。

就業規則にこのような規定があり,行おうとしている事業が競業する場合には退職金が支給されないケースがあります。

裁判上,このような規定は,一定の範囲の減額については許されるが全額の不支給は許されないと判断されることが多いです。

自社の退職金規定を確認し,退職金が不支給となったり減額される可能性があるかを調べ,不支給や減額された場合でも資金計画に支障が生じないかを検討する必要があります。

4 訴訟リスク

法的に問題がないように注意して開業準備をしていったとしても,勤務先から何らかの法的主張をされる可能性は残ります。

例えば,退職した後に,元勤務先が「競業避止義務に違反したから退職金を一切支払わない。」という扱いをした場合を想定します。

この場合,訴訟を提起して勝訴判決を得ることで退職金の支払いを受けられる可能性が高いです。しかし,判決を得るまでに短くても1年程度の期間がかかり,訴訟費用も別途必要になります。

このため,「退職金を営業開始後1年間の経費と生活費に充てる。」という予定は崩れてしまうので,この期間の資金を別途用意する方法を検討する必要があります。

このように,法的問題点の判断だけでなく,トラブル発生の可能性と対応に要するコストも併せて検討する必要があります。

クレーマー対応(実践)

店舗を経営すると悪質クレーマー対応に悩まされることがあります。
今回は事例に合わせて対応を紹介します。

クレーム発生時

クレーム発生時の目標は本社対応にすることです。

本社対応にできれば弁護士に相談しながら対応できます。

まずは謝罪して大丈夫です。
謝ったからすべての要求を認めたことにはなりません。
「謝ったから相手が悪い!」と主張する人はいますが、訴訟では認められません。

次は連絡先を交換して帰ってもらいます。

ある程度文句は聞いても構いませんが、5分まで等と時間を区切りましょう。
決めたを超えたら帰らせましょう。

帰宅を促しても帰らない場合や、暴言、暴行、脅迫がされた場合は警察通報します。

やってはダメな対応

「納得いただけるまで丁寧に説明する。」という対応はしてはいけません。
どれだけ丁寧にしっかり説明しても納得しない人は納得しません。

「悪質クレーマーには毅然な対応」「正当な権利主張には丁寧に対応」などと対応を分けることもやってはいけません。

現場でどちらに当たるかを判断することはできません。
この判断を従業員に強いると大きなストレスになります。
現場の従業員には判断も責任も負わせないようにします。

本社対応にした後

本社対応にすればほとんど勝利です。
弁護士と相談しながら粛々と進めましょう。

弁護士が代理人についただけで諦めるクレーマーも多いです。

クレーマー対応は普段からの準備が重要です。
従業員やほかのお客さんを守るために、事前にしっかりとした準備をしておきましょう。

クレーマー対応の知識

近年悪質クレーマーが問題になっています。
クレーマーの対応に疲弊している会社や従業員の話もよく聞きます。

悪質クレーマーには毅然と対応することが重要ですが、
実際にそうすることは意外と難しいです。
そこで、悪質クレーマーに毅然と対応するための知識を紹介します。

会社として対応する

クレーマー対応で重要なことは会社として対応することです。

会社としてマニュアルを作成し、対応方法は会社が決め、責任もすべて会社が取ります。
「対応に失敗しても従業員に不利益はない」
という安心を与えましょう。

クレーマーの常套句が
「上司を出せ」「本社に言うぞ」
というものです。
従業員がこれをおそれてしまうと、クレーマーの言いなりになってしまいます。
「上司に報告されても困りません」
といえるように会社で責任を取ることを明示しておきましょう。

訴訟をおそれない

次に重要なのが訴訟をおそれないことです。
クレーマーは「訴える」「通報する」など、様々な脅しを使います。
訴訟をおそれるとクレーマーの言いなりになってしまいます。
「どうぞ訴えてください。」
と言えるようにしておきましょう。

法定利率は3%

ほかにも、クレーマーの常套句として
「今払わないと多額の請求をする」
というものがあります。
しかし民法の法定利息は年3%です。
その場で払わないからといって支払額は増えません。
訴訟になったから金額が増えることをおそれる必要はありません。

不退去の罪

退去を促しても帰らない場合には、不退去の罪というものがあります。
店舗は店長の管理場所ですから、店長から退去を命じられたら立ち去らなければなりません。
お客様でもクレーマーでも居座れば罪になります。
帰れと言っても帰らないクレーマーは、不退去の罪の現行犯なので警察通報をしましょう。
不退去の罪なので刑事事件ですので、警察は民事不介入とはなりません。

悪質なネット書き込みへの対応

インターネット時代で怖いのが、ネットにあることないこと書かれることです。
書くこと自体は止められません。
そこで事後の対応を知っておく必要があります。

まずは1つ目は削除請求です。
悪質な投稿を削除させることができます。

次に発信者情報開示請求というものがあります。
匿名投稿は実は匿名ではありません。
どのプロバイダから接続したか、どこの端末から接続したか、などを調べることができます。
それを使えばどこの誰が書き込んだかを調査できます。

最後に悪質投稿をした人に名誉棄損や業務妨害で損害賠償請求をできます。

これらを知っておくことで、「ネットに悪評を書き込むぞ!」という脅しに毅然と対応できます。

十分な知識を持っておくことで
悪質クレーマーに対して毅然と対応できます。
従業員を守るため、ほかのお客さんを守るため、事前にしっかりと準備しておきましょう。

固定残業代

1 固定残業代の効果と要件

⑴ 効果
判例では,「基本給の中に残業代を含む。」という制度を採ることも許されるとしています。
ただし,実際の残業代が予定していた残業代を上回る場合には差額を支給しなければならないとしています。
例えば,毎月10万円の固定残業代を支払う制度を採っており,実際には15万円の残業代が発生した場合には差額の5万円を支払う必要があります。

つまり,会社としては,想定より残業時間が少ない場合には実際の金額より多い残業代を支払い,想定より残業時間が多い場合には実際の金額通りの残業代を支払う義務が生じます。
このため,固定残業代の制度によって残業代の支払いを減らすことはできません。

⑵ 要件
上記のように,会社は実際の残業代を計算する必要があります。
このため判例は,固定残業代の制度が有効であるためには,基本給部分と残業代部分が区別できることが必要であるとしています。

2 要件を満たしていない場合の固定残業代の扱い
基本給部分と残業代部分が区別できない場合には,残業代が支払われていないことになります。
この場合には,固定で支払われていた金額を基本給として,その基本給をもとに残業代を算定します。

4 固定残業代制度のメリット?
このように,固定残業代制度のつくりに不備がある場合には,過剰な残業代を支払うことになるというリスクがあります。また,実際の残業代を算定しなければならない以上,労働時間管理を行う手間も回避できません。
このように考えると,固定残業代の制度には,使用者にとってのメリットは乏しいと言えます。
むしろ,固定残業代の制度は,労働者に対して「残業をしなくても残業代を得られる。」という恩恵を与えることで,残業時間の削減をさせるための制度と考えてください。

雇用契約と業務委託契約

近年,会社と従業員との関係を雇用契約から業務委託契約に変更し,従業員を個人事業主に変更するケース企業が増えています。
雇用ではなく業務委託契約にした場合には,企業にとっては社会保険料等の人件費を圧縮でき,従業員にとっても自由な働き方をできるメリットがあるとされます。
しかし,雇用と業務委託は法的性質が全く異なり,適切な法的検討をせずに安易に業務委託契約に転換させた場合には,デメリットやリスクだけを抱え込むことになってしまいます。

1 雇用契約と業務委託契約の違い

雇用契約は,使用者の「指揮監督」の下で仕事を行わせ,それに対して報酬(賃金)支払う契約です。報酬は仕事を行った時間(勤務時間)によって決まり,仕事の成果が悪かったからといって報酬を減額することはできません。

業務委託契約は,請負契約であり(委任契約の場合もあり),仕事の完成に対して報酬を支払う契約です。仕事の完成に対して報酬を支払うため,仕事が完成しない場合には報酬が発生しません(委任契約の場合には完成しなくても報酬支払い義務が生じます。)。
一方で,委託者が業務の進め方を指示(指揮監督)することはできません。

2 業務委託契約とすることによるメリットとリスク

業務委託契約の場合には,労働契約と異なり残業などの概念がなく,業務時間が増えても報酬額が増えません。また,社会保険料等の負担を回避することができます。このため,人件費を圧縮できるとされます。

他方で,業務委託では受託者に対して指揮監督をできません。
さらに,事実上指揮監督を行っているなどの場合には,裁判で「業務委託ではなく労働契約である。」と認定されることがあります。その場合には,残業代などを未払賃金であるとして請求されることになり,その金額も高額になりやすいというリスクがあります。

労働契約を業務委託契約に転換する制度を導入する場合には,慎重な法的検討を経るようにして下さい。