ハンコ廃止の現状と法律の観点から考える|代替手段と今後の対応

コロナ禍での働き方改革も合わさってハンコ文化からの脱却が話題になっています。
ハンコの廃止について法律との兼ね合いから検討してみます。

1 ハンコの役割

そもそもハンコは何のために押すのでしょうか

⑴ 本人が作った文書であると証明するため

例えば,訴訟において契約書を証拠として提出する場合には,その契約書を本人(またはその指示を受けた人)が作成したと証明する必要があります。
この証明において,本人の印章(ハンコ)による印影がある場合には,本人が作成したと推定されます(民事訴訟法228条4項)。
これは,他の方法で証明しても構いませんが,ハンコが押されている場合には証明が容易になるというものです。

⑵ 法律上の要請

例えば,取締役会の議事録については,出席した取締役は議事録に署名又は記名押印しなければなりません(会社法369条3項)。
ただし,同時に電磁的記録による書面作成と電子署名が置かれていることが多いです(例えば同条4項)。

⑶ 相手方の要請

相手方から上記理由でハンコを押すことを要請されるものです。
実際には,相手方も本当にハンコが必要かを検討しておらず慣例に基づいてハンコを要請しているケースも多いでしょう。

2 ハンコに代わる手段

上記役割を代替できる手段を検討してみます。

⑴ 証明の観点

本人が作った文書であると証明するためのハンコであれば,他の方法で証明することができればハンコは不要といえます。
また,そもそも紙の文書を作る必要があるかという点も疑う必要があるでしょう。

紙の契約書であればハンコではなく署名(サイン)でも構いません(むしろ世界的にはそちらが普通です)。
さすがに,署名も押印もない場合には契約の有効性が争われるので,紙で作成する場合はこれ以上の省略は困難でしょう。

データで契約書を作るのであれば,電子署名という方法があります。
要件を満たした電子署名がなされている場合には,ハンコが押されている場合と同様に本人が作成したと推定されます(電子署名法3条)。
ただし,契約書の電子化には「相手もシステムを導入している」という条件が付いてしまいます。

稟議書などの社内文書についてはどうでしょうか。
これらは,そもそも紙にする必要があるか,ハンコを押す必要があるかという観点から検討が必要です。
これらには実印ではなく三文判の認印が使われることも多く,ハンコが押されているとしても,本人が作った文書ではないという反証が容易です。
社内で各人が閲覧して承認したことを示すのであれば,専用のシステムを作ったり,メールを利用すれば,手間も時間も費用も少なくて済むでしょう(本人以外が送受信できないシステムであれば送受信履歴を証拠とできます)。

⑵ 法律上の要請の観点

紙の書面を作って署名・押印をすることが法律で定められている文書については,ハンコを廃止することはできません。
ただし,多くの書面については,紙の書面に代わる電子的記録を作成し,電子署名を行うことで代用できると定められています。

⑶ 相手方からの要請の観点

上記代替方法があることを相手方に説明して納得してもらうことができれば廃止することが可能です。
実際には,相手方次第なので無駄でも廃止できないことが多いでしょう。
むしろ,相手方からハンコの廃止を提案してきたときに対応できる準備をしておくべきでしょう。

3 ハンコを廃止についての考え方

このように考えると,
 契約書などの社外との文書 = 完全な廃止は困難
 社内文書 = ほぼ廃止可能
となるでしょう。

社内文書で紙の書類やハンコが多い場合には余分な手間や保管スペースが必要となっている可能性が高いので見直してみてください(手間=人件費,保管スペース=設備費と考えると小さくないコストといえます)。

将来的には,行政や大手企業が積極的にハンコを廃止し,電子署名での対応を求めてくることが考えられます。
その時に備えて,早めにシステムの調査や準備を始めておくべきでしょう。

経営者保証の外し方|金融庁の方針と具体的な対策

金融庁が示す「経営者保証」見直しの方針とは?

金融庁は、金融機関が経営者保証を要求する場合、保証を要求する理由の明示や保証を不要とする条件の説明を義務付ける方針を発表しました。この方針は、以下のような目的を持っています
起業の促進
・事業承継の円滑化

これにより、中小企業が経営者保証に縛られず、積極的な経営や事業の引き継ぎがしやすくなることが期待されています。

経営者保証とその背景

経営者保証とは

 中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者自身を連帯保証人にすることが一般的です。これは主に次の目的があります
・経営者の放漫経営を防止する
・会社財産の不正使用を抑止する

経営者保証には経営者の行動を監視する機能を持たせることで、金融機関が融資を行いやすくなるという側面があります。

一方で、経営者保証は次のような負の側面をもたらしています
・経営者が投資に消極的になる
・起業や事業引き継ぎが難しくなる

事業に失敗すれば借金苦に陥ってしまうという状況を作ることで、リスクを負ってでも挑戦するという選択を取り難くなっています。

経営者保証ガイドラインの概要

経営者保証の悪影響を抑えるため、金融庁は「経営者保証ガイドライン」を策定し、一定の条件を満たせば保証を求めないよう金融機関に要請しています。
具体的な条件は以下の3つです:

・法人と経営者の区分・分離が明確であること
・法人の資産・収益力で返済が可能であること
・適時適切な財務情報の開示が行われていること

これらの条件を満たすことで、経営者保証の回避が可能になります。

経営者保証ガイドラインの実情と金融庁方針の意味

 現状では、ガイドラインに基づく運用が進んでいないのが実情です。金融機関が理由なく経営者保証を求めるケースが多く見られます。

金融庁の新方針の意義
今回の方針の明示により、金融機関は経営者保証を求める際に理由を明示する義務が生じます。これにより、不適切な経営者保証要求の抑止が期待されます。

中小企業として取るべき具体的対応

金融機関の「理由説明」への対応

金融機関から経営者保証を求められた場合には、「理由の説明」を求めましょう。
その上で、経営者保証を求める理由が示された場合には、次の対応が重要です
・理由の適切性を検証する
・事実誤認があれば訂正を求める
・融資申請段階からガイドラインを意識した融資申請書を作成する

経営改善とガイドラインへの適合

経営者としては、ガイドラインの要件を満たすための経営基盤を構築する必要があります。
特に、事業承継が関わる場合、次の準備が求められます
・法人と経営者個人の財産の分離
・公表を意識した適切な財務情報の管理
・経営基盤・収益力の向上

いずれも、会社が成長するためには重要な要素ですので、専門家のサポートを受けながら少しずつ実現していきましょう。

まとめ:経営者保証からの解放が中小企業の未来を拓く

金融庁の方針を受け、経営者保証ガイドラインの遵守は今後ますます重要になります。
・起業のハードルを下げる
・事業承継を円滑化する

中小企業が適切に対応することで、事業の成長や次世代へのスムーズな事業引き継ぎが可能となります。

会社から経営者保証を外す要望を出さないのに、金融機関から外そうと言ってくれることはありません。
まずは、会社から金融機関あてに経営者保証を外すことを要望してみましょう。