無期拘禁(無期懲役)とは?

先日、安倍元首相の銃撃事件について無期判決のニュースがありました。
このページでは、無期拘禁(無期懲役)について解説します。

無期拘禁とは(無期懲役との関係)

「無期懲役」は、刑期(年数)を定めず、刑事施設に収容し続ける刑です。近年は制度・用語が変わっていて、懲役・禁錮が廃止され、「拘禁刑」に一本化されました(法律上は「無期懲役」ではなく「無期拘禁刑」という表記が基本になります)。
※ただし、事件の日付(改正前後)などにより、報道や裁判の場面で「無期懲役」という言葉が引き続き使われることになります。

無期拘禁になり得る罪

無期拘禁規定されているのは、「最も重い部類の犯罪」です。
殺人、強盗致死、現住建造物等放火などについて無期拘禁刑が規定されています。

なお、強盗致死については、死刑か無期しか規定されておらず、闇バイトで強盗を行い人を死亡させた場合や、万引き後に逃走のために人を死亡させた場合にも、最低でも無期拘禁となります。

無期(無期懲役)で仮釈放を受けられる「最短の期間」

無期の受刑者も、制度上は仮釈放の対象になります。
無期刑の場合には、最短で10年で仮釈放を受けられることになります(刑法28条)。

実際の仮釈放の可能性

法務省の公表資料

法務省の発表によると過去10年間の、仮釈放になった無期受刑者の人数と死亡した無期受刑者の人数、仮釈放された人の平均在監期間は次の通りです。

仮釈放(人)死亡(人)年数
平成26年72331年4月
平成27年112231年6月
平成28年92731年9月
平成29年113033年2月
平成30年102431年6月
令和元年172136年
令和2年142937年6月
令和3年92932年10月
令和4年64145年3月
令和5年83037年4月

実際の仮釈放の可能性

この表を見ると、仮釈放をされるのは一部の受刑者であり、大半の受刑者は在監のまま死亡していることが分かります。仮釈放を受けられる場合でも、30年後半から40年以上の在監期間があることが分かります。
つまり、限定された一部の受刑者(模範囚)が40年程度の在監期間を経て仮釈放される可能性があるにとどまります。

よくある勘違い

まれに「仮釈放は10年で出られる」と説明されることがありますが、実態に即しない単純化しすぎた説明ということになります。

この記事の執筆者
 寺岡法律事務所
 弁護士 寺岡健一(大阪弁護士会)

謹賀新年

新年のご挨拶

明けましておめでとうございます

昨年は万博に弁護士会での活動と、仕事以外でも充実した1年を過ごさせていただきました。
本年も多くの方に法的サポートを提供できるよう駆け抜けていきたいと思っておりますのでよろしくお願いいたします。

デジタル遺産の相続

インターネット上で財産を管理できるようになり、最近はデジタル遺産の相続が発生する機会も増えています。
このページではデジタル遺産の相続について解説します。

デジタル遺産とは?

デジタル遺産とは、一般的には、故人がデジタル形式で保存していた財産のことを言います。
決まった定義があるわけではなく、インターネットバンクなどのように財産的な価値があるものに限定して言及されたり、ウェブ上に保管した記念写真などのように財産的な価値がないものも含めて言及される場合があります。

デジタル遺産の例

デジタル遺産の例としては次のものがあげられます。

財産的な価値のあるもの

  • インターネットバンキング口座
  • ネット証券口座
  • 暗号資産(ビットコインなど)
  • 電子マネー(ICOCAの先払いなど)

財産的な価値のないもの

  • インターネット上に保存した写真などのデータ
  • サブスクリプションなどの月額利用契約

デジタル遺産が相続の対象になるか

相続では、故人のすべての財産関係が相続の対象になります。
プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も引き継ぎます。
また、故人と誰かとの間の契約関係も引き継ぎます。

このため、サブスクリプション契約なども含めてデジタル遺産は相続の対象になります。

デジタル遺産の相続の手続き

それでは、財産の種類ごとにデジタル遺産の相続の手続きを紹介します。

インターネットバンキング

インターネットバンキングでは、次のような手続きの流れとなります。通常の銀行とほとんど違いはありません。
ログインパスワードなどが分からなくても大丈夫です(パスワードが分かる場合でも手続きをせずに引き出しなどを行ってはいけません。)。

・銀行に連絡
・手続き書類の受け取り
・書類の記入と必要書類(戸籍の写し、印鑑証明、遺産分割協議書など)の提出
・預貯金の払い戻し

主要なインターネットバンキングの相続手続きのリンクを記載します。
(リンクは執筆時のものになります。)

ネット証券口座

ネット証券口座は、インターネットバンキングと同様の流れとなります。

主要なネット証券会社の相続手続きのリンクを記載します。
(リンクは執筆時のものになります。)

暗号資産

暗号資産取引であっても、ほとんどは暗号資産用の取引業者に口座を開設して取引をしています。
このため、この取引業者に連絡をして相続手続きを行うことになります。
銀行や証券会社と同じですが、それらと比べて手続き窓口が見つけにくくなっています。

主要な取引業者の相続手続きのリンクを記載します。
(リンクは執筆時のものになります。)

電子マネー

各会社に連絡をして、払い戻しなどの手続きを行うことになります。

主要な電子マネー会社の相続手続きのリンクを記載します。
(リンクは執筆時のものになります。)

インターネット上の写真データなど

ログインをしてデータをダウンロードした上でアカウントの削除をします。
アカウント作成時に本人確認などがされないため、ログインアカウントやパスワードが分からない場合には手続き不可能な場合が多いです。

サブスクリプション契約など

多くの場合は、クレジットカードや銀行の引き落としで契約が判明することになります。

運営会社に連絡をして利用停止をするか、ログインして利用停止をします。
どちらの手続きもできない場合には、クレジットカード会社や銀行に連絡をして引き落としを停止します。

生前の対策(被相続人の準備)

デジタル遺産は相続人に存在を気付かれず失われてしまったり、代金を支払い続けたりしてしまうことがあります。
デジタル遺産に限ったことではないですが、相続人のために次の作業をしておきましょう。

  • 財産や契約関係のリスト化
  • ログイン情報の保存
  • 各財産の相続時の手続きの確認

ビットトレント(BitTorrent)を利用したことによる開示請求や損害賠償請求が増えています

ビットトレント利用をめぐる発信者情報開示請求とは

近年、「ビットトレント(BitTorrent)」を利用したことで発信者情報開示請求を受けたという相談が増えています。特に、アダルトビデオ業界が積極的に発信者情報開示を進めており、本来の賠償額を大きく超える金額を支払ってしまったというケースも散見されます。ここでは、ビットトレントの仕組みと発信者情報開示請求の特徴、そして適切な対応について解説します。


ビットトレントとは

一般的に、違法アップロード・ダウンロードと言えば、誰かがサーバへデータをアップロードし、別のユーザーがそこからダウンロードする形が想定されます。アップロードした人物には故意が明らかで、責任追及もしやすい構造です。

一方、ビットトレントはファイル共有の仕組みが根本的に異なります。データが小さく分割され、利用者同士が直接やり取りする点が特徴です。ユーザーは作品をダウンロードすると同時に、その断片を他のユーザーへ自動的に提供(アップロード)する状態になります。つまり、ひとつの作品の流通に多数のユーザーが同時に関与する仕組みです。この点が、後述する発信者情報開示請求にも大きく影響します。


違法になるのか

ビットトレントというシステム自体は違法ではありません。しかし、実際には著作物を違法にアップロード・ダウンロードする手段として用いられることが多く、権利者が法的措置を取る事例が増えています。とくに「自分はアップロードしたつもりがない」という認識の利用者でも、仕組み上、自動的にアップロードに協力してしまう点が問題になります。


最近増えているトラブル

特にアダルトビデオ業界では、ダウンロードを理由とする発信者情報開示請求が活発です。作品データが断片化されているため、10分程度の作品でも数十人単位のユーザーが「アップロードに関与した」として請求対象となることがあります。
さらに、「家族や勤務先に知られたくない」という心理につけ込み、数十万円〜百万円程度の高額な示談金を提示され、そのまま支払ってしまうケースも珍しくありません。


適切な対応とは何か

① 発信者情報開示請求への対応

まずは、開示請求に対して適切に対応することが重要です。争う姿勢を示すことで、開示が認められない可能性も十分にあります。実際、証拠が不十分なケースや、権利侵害が明らかでないケースでは、開示が否定される例もあります。
早期に弁護士へ相談し、法的に妥当な反論を行うことが重要です。

② 請求への向き合い方

多数の相手に一斉請求を行い、一部が支払ってくれればよい——という対応をしている権利者も存在します。弁護士が代理人として争う姿勢を示すことで、請求側が態度を軟化させる、あるいは請求自体を断念することもあります。


まとめ

発信者情報開示請求を受けたからといって、請求額をそのまま支払う必要はありません。安易に示談に応じてしまうと、本来負う必要のない高額な金銭を支払う結果につながります。まずは仕組みを理解し、適切な法的対応を行うことが何より重要です。


費用

ビットトレント(BitTorrent)関連の開示請求の対応については、特殊性を踏まえて通常よりも低めの料金設定を用意しております。

開示請求対応・意見書文案作成:5.5万円
・意見対応の代理:11万円
損害賠償請求対応・受任時:11万円~(税込)
・終了時:減額した15.4%(税込)
・訴訟移行時:+22万円(税込)
・期日日当:3.3万円/日

【解決事例】困った親族との接触を避けつつ遺産分割を完了させた事案

相談内容

Xさんは、お母さま(Aさん)が所有するマンションで、Aさんの介護をしながら二人で暮らしていました。
Xさんにはお兄さん(Zさん)がいますが、ZさんはたびたびXさんやAさんのもとを訪れては金銭を無心するなど、二人を困らせていました。

そうした状況の中、Aさんは90代まで長生きされましたが、ついに亡くなられました。
Xさんは、しっかりと葬儀を執り行い、Aさんを見送った後、預貯金やマンションの名義変更などの相続手続きを進めようとしました。
しかし、ここで問題が生じました。
相続手続きを行うには、共同相続人であるZさんと連絡を取り、二人で手続きを進める必要があります。
Zさんの連絡先や住所はわかっているものの、これまでの経緯を踏まえると、連絡を取れば再び金銭を無心されることが予想され、何よりもZさんと連絡を取ること自体がXさんにとって大きな精神的負担となってしまいます。

そこでXさんは、弁護士に相談しようと考え、私のもとを訪れました。

解決までの流れ

ご相談を受けて、私は「法的には難しくないものの、実際の手続きの面では非常に複雑になりそうだ」という印象を持ちました。

まず、Zさんとは裁判所以外で交渉を行うべきではないと判断しました。
これまでの経緯を踏まえると、たとえ何らかの法的合意ができたとしても、Zさんがそれを無視して再び金銭を無心してくる可能性があると考えられたからです。
そこで、裁判所という公的な場で手続きを行うことで、Zさんに対して「後から蒸し返すことはできない」という強い印象を与えることを目指しました。

まずは、Aさんの遺産を整理するために、預貯金や不動産に関する資料の収集を開始しました。
幸いにも、Aさんは生前からとても几帳面な方で、財産を分かりやすく整理してくださっていたため、この作業は2~3か月ほどで完了しました。

ところが、その途中で問題が発生しました。
弁護士からの受任通知を受け取ったZさんが、突然弁護士事務所を訪れ、「早く金が欲しい」と主張してきたのです。
もちろん、弁護士としてそのような要求に応じることはできません。
その場で、事務所に直接押しかけて金銭を要求するような行為は場合によっては犯罪となり得ることを警告し、正式な手続きを経るように、すなわち調停の申立てを待つよう指示しました。

このように、Zさんの突然の来訪というトラブルはあったものの、無事に弁護士から家庭裁判所へ調停申立てを行うことができました。
調停が始まってからは、Aさんの生前のご意向も踏まえ、相続分に応じて財産を公平に分割することで合意に至りました。

そして、Xさんが懸念していた「今後もZさんが金銭を無心しに来るのではないか」という不安にも対応する必要がありました。
そこで、調停合意の条件として、Zさんから「今後Xさんに直接接触しないこと。もし連絡が必要な場合は、必ず弁護士を通すこと」といった誓約を取り付けました。

このようにして、XさんとZさんが顔を合わせることなく、無事に調停を成立させ、預貯金や不動産の名義変更も滞りなく行うことができました。

弁護士のコメント

遺産分割について弁護士に相談するのは、「分割方法をめぐって揉めている場合」と思われがちですが、実際にはそうとは限りません。
他の相続人と連絡が取れない、取りたくない、あるいは連絡を取りにくいといった理由でご依頼いただくケースも少なくありません。
法的な争いがない場合でも、弁護士にご相談・ご依頼いただくことで、遺産相続の手続きをよりスムーズに進められることがあります。

【解決事例】家賃収入の行方が不明な不動産相続を遺産分割調停で円満に解決した事例

ご相談内容

ご相談者のXさんは、2年前にお母さまを亡くされました。
相続人は、Xさんとご兄弟のZさんのお二人です。

お母さまの相続財産には、預貯金のほか、複数の不動産が含まれており、その一部は他人に賃貸して家賃収入が発生していました。
しかし、お母さまのご逝去後、家賃の振込が止まり、入金の行き先が分からない状態となっていました。

XさんはZさんに家賃の状況を確認しましたが、回答が得られず、不動産相続と遺産分割の進め方に不安を感じ、当事務所へご相談に来られました。

弁護士による対応と解決の流れ

まず、弁護士が相続財産の全体像を明らかにするため、

  • 不動産の登記事項の調査
  • お母さま名義の預貯金口座の取引履歴の取得
  • 不動産の評価額(時価)の調査

を行いました。

その後、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、家賃収入の行方についての開示を求めました。
調停の結果、家賃はZさんが受け取っていたことが判明。
一方で、Zさんは建物の修繕・管理費用を負担していたため、合理的な管理費用については相続財産から差し引くこととしました。

最終的に、以下の内容で遺産分割の合意が成立しました。

  • 不動産・預貯金・家賃収入から合理的な管理費用を控除した金額を相続財産とする
  • 相続財産を2分の1ずつ分ける
  • Xさんは現金で、Zさんは不動産と預貯金で受け取る

これにより、Xさんは遠方のN県へ出向くことなく、相続手続きをすべて完了することができました。

弁護士からのコメント

相続人の一方が財産を管理していて、他の相続人が内容を把握できないケースは珍しくありません。
しかし、弁護士が調査を行うことで、正確な財産の内容や家賃収入の流れを明らかにし、公平な遺産分割を実現することが可能です。

「相手が財産を開示してくれない」「家賃収入の管理状況が不明」など、
不動産相続に関するお悩みがある方は、ぜひ一度ご相談ください。

悪質クレーマー・カスハラ対策|会社と従業員を守るための対策ガイド

近年、カスタマーハラスメント(通称カスハラ)や悪質クレーマーによる会社や従業員への圧力が問題視されています。
適切な知識を持つことで、会社と従業員を守ることが可能です。この記事では、悪質クレーマーへの効果的な対策を解説します。
※この記事は、2025年4月1日作成の記事を労働施策総合推進法改正によるカスハラ対策の義務化に合わせて加筆修正したものです。

改正労働施策総合推進法(2026年10月1日施行)

改正内容

改正後の労働施策総合推進法では、使用者に従業員をカスハラから守るための措置を講じる義務が課されます(33条1項)。この義務を怠った場合には、厚生労働大臣から勧告を受けたり、公表されることがあります(42条2項)。

改正法が規定するカスハラの定義

改正法においてカスハラとは、以下の3点を全て満たすものであるとされています。

  • 職場において行われる、顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、
  • その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、
  • 当該労働者の就業環境を害すること

ただし、実際の現場でこれに該当するかを検討するのは困難ですので、対策上意識しすぎる必要はありません。

企業に課される義務

事業者には、従業員からの相談に応じ、カスハラに適切に対応するための体制整備が求められます(33条1項)。
分かりやすい言い方にすると、事前の基本方針の策定や従業員を守る意思の周知、マニュアルを作成して周知、カスハラを受けた従業員の相談体制の整備などが義務付けられます。

特別に新たな義務を課するものではない

もともと、使用者は従業員との労働契約に基づいて、従業員の安全を確保するべき安全配慮義務を負っています(労働契約法5条)。もし、使用者が何のカスハラ対策も行わなかったために、従業員がうつ病にり患するなどの損害が発生した場合には、従業員に対して損害賠償責任を負います。この意味で、以前から、使用者は適切なカスハラ対策を行う義務を負っていたといえます。

今回の改正は、もともと使用者がカスハラ対策の義務を明文化したものに過ぎず、使用者に新たな義務を課するものではありません。

事業の運営上の影響は大きい

一方で、カスハラ対策の義務が明文化されたことは、事業の運営上は大きな影響を与えます。

まず、法改正自体がメディアで発表されていますので、従業員としては自分の事業所がカスハラ対策を講じていないように感じる場合には、使用者に対して不信を持ちます。
このため、使用者は、従業員に向けて、改めてカスハラ対策を講じてその発表を行う必要があります。

次に、世間全体で、カスハラを許さないという風土が出来上がっています。これによって、店舗など顧客が立ち入る場所にカスハラ対策の方針などを掲示した場合にも、顧客の理解を得やすくなります。口コミサイトなどへの悪質な書き込みについても、「悪質なクレーマーが事実を婉曲して書いているのだろう。」と好意的な解釈をされやすくなります。
このように、事業所として、カスハラ対策を行いやすくなります。

今回の改正については、事業者に義務を課すこと以上に、事業者が従業員を守る行動を世間に理解されやすくなる効果が大きいと考えており、事業者にとってもメリットが大きい改正であると考えています。

カスハラ対策・クレーマー対策を行わないとどうなるか

他のお客さんへの影響

このような経験はないでしょうか?
レジが2つしかないコンビニエンスストア。一人の客がレジで延々とクレームをつけています。そのせいでレジが1つしか動かず、どんどん列が長くなり、お客さんの待ち時間が長くなっていきます。
このように、クレーマーによって他のお客さんに迷惑がおよぶケースがあります。
このため、適切な対策を行わなければ、他のお客さんが嫌がって足を遠のかせることがあります。

従業員への影響

カスハラは従業員にとって重い負担になります。このため、適切な対応を行わない場合、従業員の心身の不調や離職につながることになります。
このため、適切な対策を行わなければ、業務のパフォーマンスが低下し、離職者、休職者が増え、一方で採用でも苦戦することになり、人手不足を生じさせることにつながります。

会社への影響

クレーマーによって他のお客さんに迷惑がおよぶと会社の売り上げに悪影響が出ることがあります。
従業員の心身に不調が生じた場合には、債務不履行として会社が損害賠償責任を負う可能性があります。さらに、パフォーマンス低下、離職者、休職者が増え、採用でも苦戦することになり、人手不足を生じさせます。
このように、お客さんや従業員、ひいては会社を守るためにカスハラ・クレーマー対策は適切に行う必要があります。

重要なのは、法律で義務付けられたから対策が必要なのではなく、会社が利益を確保するために対策が必要であるという点です。

カスハラ・クレーマー対策のための基礎知識

カスハラ・クレーマー対策に役立つ法律の基礎知識をいくつか解説します。これらは、クレーマー対応以外の場面でも役立つので是非知っておいてください。

訴訟はこちらに有利である

クレーマーの典型的な脅し文句として、「訴える」「今払わないと高額の請求をする」などがあります。
しかし、民法上の法定利率は年3%であり、支払が遅れたからといって金額が大きく増えることはありません。むしろ、クレーマーと交渉するよりも、中立の裁判所で訴訟を行う方が会社にとって負担が少ないとも言えます。

警察通報ができる場合がある

暴行、脅迫などがあれば当然刑法犯となり警察通報することになります。
さらに、刑法には不退去の罪(刑法130条後段)というものがあります。これは、退去を求めているのに退去しない場合には、住居不法侵入と同じ罪になるというものです。このため、クレーマーが居座る場合には退去を求め、退去しない場合には「不退去の罪」として警察通報をすることができます。

インターネットの違法な書き込みは法的に対処できる

クレーマー対応では、インターネット上で事実無根の悪評を書かれることの不安もあります。
しかし、インターネットでの書き込みは、実際には完全な匿名ではなく、プロバイダ責任制限法によって、悪質な投稿は削除をさせたり、投稿者を特定したりすることができます。
さらに、民法の規定に基づいて、名誉毀損・業務妨害などの不法行為として損害賠償請求をすることも可能です。

統一したマニュアルを作ることの重要性

クレーマー対応で最も重要なのは、会社として一貫した対応をすることです。統一したマニュアルを作成しておくことで、従業員が安心して対応できるようになります。

従業員が感じている不安

クレーマー対応において、経営者は「クレーマーの妨害行為」や「売り上げや口コミなどの評価への悪影響」という不安を感じます。
従業員は、これに加えて「会社から責任を問われる不安」を感じています。例えば、自分としては非がないと考えていても、会社が従業員に非があると判断して責任を負わされるかもしれない、降格、減給、損害賠償などの責任を負わされるかもしれないという不安を感じています。
この不安が、従業員がクレーマーの言いなりになってしまったり、長時間の拘束に応じてしまう原因になります。

マニュアル作成は従業員の安心につながる

会社としてマニュアルを作成するとともに、マニュアルに従った結果問題が生じても会社が責任を取ること、従業員には責任がおよばないことを徹底して説明しておくことで、従業員は安心して適切なクレーマー対応を行うことができるようになります。
そして、この安心感は普段の従業員のパフォーマンスにも影響していきます。
さらに、これらの方針がHPなどで公表されていることは、採用活動においても有利に働きます。

具体的なマニュアル例

カスハラ・クレーム対応の基本は、その場で解決しようとせず「本社で対応する」ことです。
悪質クレーマー問題を現場で解決することは困難ですし、正当な権利主張であればなおさら本社で賠償などの手配を行う必要があります。

ここで紹介するマニュアル例はあくまでも基本的なものであり一例です。自社の事業内容などに応じて適切なものを作成しましょう。

不適切なマニュアル例

まず、やりたくなってしまいがちですが、適切ではない対応というものがあります。ここでは、従業員の負担という観点から2つのNG例を紹介します。

「納得するまで丁寧に説明する」
お客様に納得いただけるまで丁寧に説明するという対応は、従業員にとっては、いつ終わるか分からないクレーマー対応を何時間も強いられることになり、強い心理的負担になります。
これは、従業員が離職しやすくなるだけでなく、従業員が心身の不調に陥り、会社が従業員に対して損害賠償責任を負うことにも繋がります。

「正当な権利主張には誠実に対応、悪質クレーマーには毅然と対応」
これは一見すると合理的で適切な対応のように感じられます。また、弁護士などのサポートを受けながら対処できる場合には理想的な対応とも言えます。
しかし、主張が正当なのか、認容される金額がどれくらいなのかは、専門的で法的な判断になります。この判断をしようとすると、それ自体が従業員にとっての大きな心理的な負担になります。現場の従業員にこの負担を強いるべきではありません。現場においては、正当な主張か、ちゃんとしたお客様か、不当なクレームか、カスハラかなどの判断を行わないようにしましょう。

マニュアル例:本社で落ち着いて対応できる状態を作る

クレーマー対応時に重要なのは、現場で解決しようとせず、会社全体で落ち着いて統一した対応を取れる状況を作ることです。一度クレーマーから離れれば、専門家のサポートを受けながら落ち着いて法的に対応することが可能になります。
いかにして、この状況を作るかという方針でマニュアルを策定しましょう。

初動で謝罪しても問題ない
クレーマーであっても、何らの合理的な理由なくクレームを言っているケースはまれです。謝罪をしたことを根拠に後から裁判で責任を認定されるわけではありません。このため、初動で謝罪をすることに問題はありません(政府広報でも顧客対応の不備がカスハラにつながったケースが多いと指摘されています。)。
なお、謝罪したことに乗じて不当な要求をされた場合には、後述のように退去を求めたり、警察通報すれば足ります。

連絡先を確認する
後日に本社から対応する旨を伝えて連絡先を聞くようにしましょう。
会社から損害賠償をしなければいけないような正当な主張の場合には、その義務を履行するために連絡先を教えてもらう必要があります。
逆に、自ら不当であると認識しているクレーマーであれば連絡先を聞くと諦めるケースも多いです。

時間制限を設ける
マニュアルの中で必ず対応時間の上限を定めておきます。例えば「5分」などと明確に時間を定めます。
長時間クレーマー対応に時間を割くと他のお客さんに迷惑をかけることになります。また、いつ終わるか分からないクレーマー対応を行うことは従業員にとって大きな心理的な負担になります。終わりが見えている状態にすることで従業員の不安を減らすことができます。

決めた時間を超えた場合は退去を命じる
決めた時間を超えてもクレームが終わらない場合には、対応を打ち切る旨を伝えて、明確に退去を命じます。
しっかりとしたマニュアルが定められていない場合、従業員自身の判断で対応を打ち切って退去を命じることは簡単ではありません。必ず、一定時間を超えたら打ち切れることを明確に従業員に伝えておきましょう。

退去に応じない場合や暴行・脅迫があれば直ちに警察通報
退去を命じると、ほとんどのクレーマーは諦めて退去します。
それでも退去しない場合には、不退去の罪として警察通報を行います。この場合は刑事事件ですので「民事不介入」にはなりません。
なお、対応時間以内であっても、暴行や脅迫など、従業員が危険を感じた場合には対応を打ち切って警察対応をしましょう。

従業員に責任がおよばないことを明示しておく
従業員はクレーマー対応を誤った場合に自分に責任がおよぶのではないかという不安を感じながら対応をすることになります。
従業員に責任がおよばないことを明確にしておくことで従業員の不安を解消することになります。この安心感は従業員の仕事の質にも影響していきます。

最終的には本社が統一した対応をする
連絡先を聞いて本社で対応できるようにした後は、本社で責任をもって統一した対応をします。この時点ではお客さんは目の前にいないので、落ち着いてじっくりと対応するようにしましょう。
弁護士などの専門家のサポートを受けながら対応することも重要です。

まとめ

悪質クレーマー対策には、事前の準備と知識の共有が不可欠です。
会社として統一した対応を決め、従業員が安心して働ける環境を整えることで、被害を最小限に抑えることができます。
クレーム対応に困ったら、弁護士に相談することをおすすめします。
法的手段を適切に活用し、企業の利益を守りましょう。

この記事の執筆者
 寺岡法律事務所
 弁護士 寺岡健一(大阪弁護士会)

離婚を成立させるための条件は?民法で定められた離婚の理由

離婚は、夫婦双方の合意があればどのような理由でも成立します。
しかし、一方が離婚を望まず合意が得られない場合には、民法で定められた離婚原因が必要です。
民法第770条では、次の5つの法定離婚事由が定められています。


不貞行為

いわゆる「不倫」にあたります。配偶者以外の人と自由な意思で性的関係を持った場合に該当します。
単に異性と食事や旅行に行っただけでは不貞行為とはいえません。また、相手から強制された性的関係も該当しませんが、逆に自ら相手を強要した場合は不貞行為と認められます。

不貞行為を理由に離婚を求める場合、立証が大きなポイントになります。メールやLINE、SNSのやり取りなどは「間接的な証拠」として有力ですが、裁判で確実に認められるためには、探偵による調査報告書やラブホテルへの出入り写真などの客観的証拠が必要になります。


悪意の遺棄

夫婦には「同居」「協力」「扶助」の義務があります。正当な理由なくこれらの義務を果たさない場合が「悪意の遺棄」にあたります。
たとえば、配偶者に無断で家を出て生活費を一切渡さない、家庭を顧みず帰宅しないなどが典型例です。
一方で、単身赴任など合理的な事情がある場合には該当しません。行動の理由が社会的に正当といえるかどうかが判断のポイントになります。


3年以上の生死不明

配偶者の生死が3年以上わからない場合も離婚原因となります。
単なる「連絡が取れない」では足りず、生死が不明な状態であることが必要です。
現代社会ではあまり想定しにくい条項といえます。


強度の精神病で回復の見込みがない

配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがなく、夫婦の共同生活が著しく困難になっている場合も離婚事由になります。
認知症などでこれによる離婚を認めてしまうと看護者がいなくなってしまうため、裁判所が認めない場合も多いです。
「回復の見込みがない。」という要件が必要であるため現代社会では認められにくい条項といえます。


婚姻を継続しがたい重大な事由

上記4つの理由に当てはまらなくても、「婚姻関係がすでに破綻し、回復の見込みがない」場合には離婚が認められます。
この「重大な事由」には、さまざまなケースが含まれます。たとえば、

  • 暴力(DV)
  • 宗教活動への没頭で家庭生活が維持できない
  • 働かずに浪費やギャンブルを繰り返す
  • 長期間の別居が続いている
  • 性格の不一致により共同生活が不可能になっている

「性格の不一致」という感情的な表現ではなく、「夫婦の協力義務が果たされていない」「婚姻関係が回復困難な状態にある」といった法的に主張する必要があります。

離婚の方法(協議離婚 調停離婚 裁判離婚)

離婚にはいくつかの方法があります。
主なものは「協議離婚」「調停離婚」「裁判離婚」であり、それぞれ手続きの進め方や必要書類、注意点が異なります。
以下では、それぞれの離婚方法の特徴を分かりやすく解説します。

協議離婚 ― 話し合いで成立する最も一般的な離婚

協議離婚とは、夫婦が話し合いによって離婚に合意し、市区町村役場に離婚届を提出することで成立する、いわゆる「普通の離婚」です。
離婚の大部分がこの協議離婚で行われています。

協議離婚は当事者の合意があれば成立するため、裁判所の関与は不要です。
養育費・財産分与・慰謝料などの取り決めがなくても離婚届を提出すれば離婚は成立しますが、これらを曖昧なまま離婚すると、後に紛争や生活上のトラブルが発生するおそれがあります。

そのため、離婚の条件を明確に定めた「離婚協議書」を作成し、できれば「公正証書」にしておくことが望ましいです。
公正証書にしておくと、将来養育費が支払われない場合に強制執行を行うことが可能となります。
条件の書き方や文面には法的な注意点が多いため、弁護士に依頼して作成するのが安全です。

調停離婚 ― 裁判所で第三者を交えた話し合い

協議での合意が難しい場合、次の段階として「調停離婚」があります。
調停離婚は、家庭裁判所に申立てを行い、裁判所の調停委員を交えて話し合いを進める方法です。
調停委員が双方の意見を聞き取り、合意点を探ることで、冷静かつ合理的な話し合いが期待できます。

調停離婚もあくまで「話し合い」に基づく離婚であり、当事者が合意に達した場合にのみ成立します。
合意が成立すると、裁判所が作成する「調停調書」にその内容が記載され、これが確定判決と同様の効力を持ちます。
調停成立後、調停調書を添付して離婚届を提出することで、正式に離婚が成立します。

また、調停は後述の裁判離婚に進むための前提手続でもあります。
裁判で争う場合も、まずは必ず調停を経なければなりません。
調停の場では、主張を整理し、法的な視点で適切な主張を行う必要があるため、弁護士に依頼して臨むのが一般的です。

審判離婚 ― 例外的な離婚形態

審判離婚は、調停の中で離婚自体には合意しているものの、条件の一部についてだけ折り合いがつかない場合に、裁判所が職権で離婚を成立させる制度です。実際には極めて稀であり、離婚方法として特に意識する必要はほとんどありません。
審判離婚を申し立てる機会もないと考えて大丈夫です。

裁判離婚 ― 法律上の離婚原因に基づく判決による離婚

調停を経ても話し合いがまとまらない場合、最終手段として「裁判離婚」に進みます。
裁判離婚は、家庭裁判所に訴えを提起し、裁判官の判断によって離婚の可否が決定されるものです。

裁判離婚では、単に「気持ちが冷めた」だけでは認められません。
民法770条で定められた離婚原因(例:不貞行為、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、回復の見込みのない精神病、その他婚姻を継続し難い重大な事由)に該当することを主張・立証する必要があります。
そのため、証拠の収集や法的な主張整理が不可欠であり、弁護士による代理が実質的に必須となります。

謹賀新年

あけましておめでとうございます
新しい年が皆様にとって素晴らしい一年であることを心より祈念しております

本年も法的サポートの充実を通じて
地域社会の発展に寄与していきますので
よろしくお願いいたします